2014年8月27日水曜日

堀本裕樹『富士百句で俳句入門』・・・



堀本裕樹著『富士百句で俳句入門』(ちくまプリマ―新書)。
果敢なアイデアというべきか。昨年6月に世界文化遺産に登録された富士山にあやかって、俳句の入門書にしてしまった。
堀本裕樹はもともと,生まれ故郷の作家・中上健次を目標に小説家をめざしていたらしいから、さまざまな文章が書けるのは当然としても、俳句に関して、いわば俳句の素人にわかりやすく、その機微を説明しようとするのは、じつに困難なことである。相当に苦労したのではなかろうか、と推測する。
富士百句を独断で選ぶことは、資料収集の困難さを思ったとしても、俳人であれば可能といえば可能である。問題は俳句の本質的な問題をどこまで読者に分かりやすく提示し、さらに収載された句を、入門書としてどのように解釈・鑑賞して供するかが問われる。
愚生は俳人の端くれだから、選ばれた百句選さえあれば、それで様々に思いを巡らす楽しみを与えてもらったと、感謝しておきたい。
山口誓子が朝日新聞俳壇の選句のために、東海道新幹線の往復で俳句を作り続けたことは有名だが、本著では、無季の作品、誓子「富士火口肉がめくれて八蓮華(れんげ)」を選んでいる。が、富士登山のシーズンに登った誓子を思って、夏季の項に入れている。
ともあれ、富士山の句を春夏秋冬・新年に分類しての章立ては、絵葉書ではないが何と言っても富士には新年がよく似合うのだ。それが巻末に置かれているのだから、富士山も一層美しく見えようというもの。集中の小見出しは「めでたき存在感」。収載された句は、

      眼前に富士の闇ある淑気(しゅくき)かな        東  良子
      御降(おさがり)の大くまとりやふじの山          小林見外
      元朝(がんちょう)や大いなる手を富士拡げ      五所平之助
      小さくとも淡くとも富士初景色                西村和子

最後に、「裏富士」の句について、無い物ねだりの希望を言わせてもらうとすれば、愚生の第一の好みからすると、三橋敏雄の次の句を是非、入集して欲しかった。

     裏富士は鴎を知らず魂まつり               三橋敏雄


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