2014年10月7日火曜日

「逸」第34号・・・



「逸」は少し変わった不思議な雑誌である。同人誌ではない。花森こまの個人誌というところだろうが、今号の招待作品は安井浩司・松本恭子である。さらに和田悟朗の榮猿丸句集『点滅』の鑑賞、加えて妹尾健の評論「石原映水のこと」もある。そのほか愚生にとっては、懐かしい名が散見される。例えば木戸葉三、楢崎進弘、吉田健治、渡辺隆夫、小島ノブヨシ、そして花森こまもその一人である。いずれも特徴のある貴重な作品に評論である。
とくに地味ながら丁寧な俳句史をつむぐ妹尾健の「石原映水のこと」には以下のような記述も見える。享年30で夭折した映水は昭和9年「俳句研究」3.4月号雑感で、

当代の俳人を列挙して『渡辺水巴、池内たけし、星野立子、花木伏兎、山口誓子、水原秋桜子、山口青邨、日野草城、藤後左右、赤星水竹居、山本梅史、何れの一句として読みに堪えるものとてはない弛緩せる低調さを示している』(我らの進むべき道ー『俳句研究』三・四月号雑感 昭和9年4月稿)とする。ー中略ー映水の筆はそれらの人々を含めてすべてを低調と断じて憚らないのである。この論調は昭和俳壇においてホトトギス・新興俳句・自由律俳句の他に日本派とも呼称してよい一派があったことを証明している。この一派は昭和俳句のいずれの傾向に対しても批判的であった

と言う。ここにはたぶんに妹尾健のただいま現在の俳句の流行に対する姿勢もうかがわれよう。
「逸」は年2回の刊行ということらしいから、単純に計算すると17年を閲していることになる。貴重な存在感である。
最後に、雑誌ではめったに読めない安井浩司と松本恭子の句を挙げておきたい。

     草露や双手に掬えば瑠璃王女       浩司
     春陰の寺や午沈のからすども
     悲しみもあらん麦星(スピカ)の乙女座に
     上向きに炎える実柘榴耕衣の絵
     山寺詩「蕉心伸びず時雨待つや」

     家中の留守をひびかせ蝉の声      恭子
     かまつかのかまつかたれば飛び立てよ
     窓あけてある淋しさダリアの家
     残菊やはげしきものを腸に
     薔薇色の柱のへりに死がきてる
  
                     チカラシバ↑

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