2016年9月27日火曜日

大本義幸「年収200万風が愛した鉄の町」(「俳句新空間no.6〈21世紀俳句選集〉」)・・・




「俳句新空間」NO、6(発行人、北川美美・筑紫磐井)の冒頭、かつてほぼ十年間隔で角川書店『現代俳句選集』『平成秀句選集』が編まれた事に触れ、その後にこうした現在の俳句を映し出すような企画がない、としながら「21世紀俳句選集を編むにあたって」で筑紫磐井は言う。

  とはいえ、角川書店の500人近くの壮大な企画に比べて「俳句新空間」でできるのは三〇人余の小さな企画である。しかし、そうした企画が成り立ちえるのかどうかは、他の雑誌がやらない以上やって非難されるべき筋合いはない。非難する前に、できるものなら非難する者は自らやってみればいいからである。これがとてつもなく難しいことは体験してみてわかるはずである。
  題して「21世紀俳句選集」。小さな穴から、21世紀の広大な天空がうかがえれば幸いである。秦夕美から川嶋健佑までの世代を堪能していただきたい(掲載は到着順とした)。

以下はその一人一句である。

   巨石文明滅びてのこる冬青空       仲 寒蟬
   銀漢や象の涙を触れに来る        田中葉月
   イルカショー始まる淋しき国家       小野裕三
   蛇皮を脱ぐ戦争へ行ってくる        中村猛虎
   ゆつたりとほろぶ紋白蝶のくに       秦 夕美
   山火迅しあとさきになる人のこゑ     渡邉美保
   涅槃図の極彩色の嘆きかな        神谷 波
   惜春の心ラフマニノフの歌         前北かおる
   式典の空も会場原爆忌           小沢麻結
   虹の根を食べれば人でなくなるよ     竹岡一郎
   狐火が言い寄つてゐる狐火に      ふけとしこ
   国霊やコンビニの灯を門火とす     真矢ひろみ
   長き夜の両手に包む片手かな      隅美保子
   雪国の一切白き初湯かな         内村恭子
   枇杷の花遠方で臼ひかりだす      坂間恒子
   原子力発電所すめろぎも穀雨なか   大井恒行
   リコーダーで宣戦布告する立夏     川嶋健佑
   扉なく向き合ふ壁や冬紅葉        岬 光世
   皿にのり静物となるラ・フランス     水岩 瞳
   たらちねの混沌大根煮崩れる      もてきまり
   狐火や列車は遅れたまま走る      五島高資
   人工を恥ぢて人工知能泣く        佐藤りえ
   地球より生まれた小石白日傘      網野月を
   雪降つてくる雪空の中途より       青木百舌鳥
   教室はいなくなるひとでいっぱい     柳本々々
   硝子器に風は充ちてよこの国に死なむ  大本義幸 
   砂時計未生へ落つる長き夜        福田葉子
   いくたびも手紙は読まれ天の川      中西夕紀
   匂うにおう寒月光かセシウムか      羽村美和子
   黒土の清らかに抱く霜柱          堀本 吟
   二〇一一年その春のまだ未知だつた  関根誠子
   分かるもんですか桜桃忌の手相     中山奈々
   夏野にて空の淋しさ見てゐたり      北川美美
   千羽鶴のなかの一羽が寒いといふ   渕上信子
  
   屍の美
   本当をいふ
   人知無涯(はてなし)
   人もすなる失(あやまち)         筑紫磐井 



                    ムカゴ↑


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