2016年9月12日月曜日

高橋睦郎「氷白玉(こほりしらたま)白玉樓中君受けよ」(『十年』)・・



高橋睦郎第九句集『十年』(角川書店)、600余句の基調の色は、白皙の句群である。
後書きともいえる「餘」にも、

 畏敬する若き俳友、田中裕明逝去の年暮をもつて終はつた前句集『遊行』以後、十年分の句屑を拾つてここに一本とする。(中略)
 これら貧しき限りの總てを、裕明居士をはじめ、この閒幽明境を異にした師友知己諸霊に献げたい。勿論、生の最中にある諸子の掌に上ることあらば、望餘の喜びである。

   氷白玉(こほりしらたま)白玉樓中君受けよ   

とある。ものの本には、「白玉楼中の人となる」について、唐の文人季賀の臨終に天の使いが来て、「天帝の白玉楼成る、君を召してその記を作らしむ」という故事によるとあった。
この十年の年月に、追悼し、偲ぶ句も多く収載されている。そのいくつかの句、

     白川宗道剝離性動脈瘤 急逝
   冬の瘤はじけ放光四方芽吹く
     悼 安達瞳子
   櫻咲く待たずほとりと椿落つ
     偲 田中裕明
   故人ゐて對する如し年の酒
     悼 湯川書房主人
   道をしへ君尋むべしや草の丈
     悼 加藤郁乎
   人死ぬやこゑ萬綠に溺れつつ
     悼 眞鍋呉夫
   はつ夏の雪をんなこそ苔雫
     悼 桂枝雀
   哄(おほぐち)に笑うて虚ろ芽吹山
     
などなど、すべてを挙げればきりもないほど・・・。
あと一つ、余談になるが、魅かれたのは装幀・吉野史門とあったことだ。
その昔、愚生が書店員だったころの吉野史門は書肆林檎屋の主人だった。鷲巣繁男『蝦夷のわかれ』、何と言っても、自筆稿そのままを写真製版した渡邊白泉全句集『白泉句集』は忘れがたい。当時直接取引で棚に並べさせてもらったのだ。その人が、『十年』の装幀をしていた。色でいえば白皙の句群に相応しい造本。
句を以下にいくつか挙げておきたい。
   
   天白く道白く晝をきりぎりす
   いなつるび白目畏き稲田姫
   木の葉髪黒きは卑し白きより
       世情
   子を殺すうなじ白くて寒からん
       越後長岡
   よべ花火競ㇹひし空のただ白し
   ことごとく白頭吟や秋のホ句

最後の句、「白頭吟」は石川淳の観覧車の上から見渡すシーン。たぶん「巷(ちまた)のけしきはさしあたり太平楽をきはめていた」・・・を踏まえている。
   
さらに、愚生の好みでいくつかの句を挙げる。

  京都千年梅雨千年をふりにふる
  土波海嘯(なゐつなみ)冴返る一億三千萬
  死ぬるゆゑ一ㇳ生めでたし花筵
  やすらへ花・海嘯(つなみ)・兇火(まがつひ)・諸霊(もろみたま)
  八方の原子爐尊(たふと)四方拝
  花疲れとは人よりも花に先づ
  形代の落ちゆく永久(とは)に浄まらず
  漱(くちすすぐ)水に血の香や今朝の冬




  
   
   

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