2017年5月24日水曜日

秦夕美「てちがひもほどよき数か蛍狩」(「俳句界」6月号)・・



「俳句界」6月号のメイン特集は「『俳句に詠もう 季節の鳥』-春夏秋冬の鳥をカラー写真で解説・例句付き」とあって、論考は小杉伸一路「探鳥楽しみ」と坂口昌弘「鳥に執した俳人」。季節の鳥の方は50羽近くがカラー写真で鳴き声が吹きだしで付いている。例句もあって見ても読んでも楽しめる(例句は故人が多いので、ちょっと惜しいような気もする。編集部は大変だが現役の俳人の書下ろし句だったら実に圧巻だったかも知れない)。
作品欄は高野ムツオ特別作品50句、復本一郎の俳句界NOWの自選30句などがあったが、ここは「豈」同人の秦夕美・特別作品21句「別の世」を挙げておきたい。何しろ句を詠む上手さでは、群を抜いている。今号も句の頭の文字をたどれば「つひにゆく道とはかねて聞きしかどきのふけふとは思はざりしを」在原業平の一首になっている。というわけで、第一句から五句めまでを以下に引いてみよう。

  つひに会ふ冥王薔薇をむしりゐる
  ゆくりなく触れるる鉄棒五月闇
  道草のはじめは黄泉の蓬餅
  とある日の鮎のにごせる川面かな
  はつなつの墓原はしる影いくつ

で、最後の締めの一句は、

  思はざりしを夕照のかきつばた


つい最近発行された秦夕美の個人誌「GA」77号の「あとがき」に、

 十七字で時空を旅する。もう六十年近くそうしてきた、殆ど一人旅、つまらないのは旅先で出会った風物について聞いてもらえる人が年々減っていくこと。まあ、こちらが年をとるのだから仕方ないか。呟きの羅列にすぎないこの冊子も号を重ね、日常のリズムのなかに組み込まれていく。いつまで続くかは神のみぞ知る。巧拙はともかく、書けるのは書ける。

とあった。続けて、

 はるけくも来つるものかな。誕生日を迎えて七十九歳、七十代も最後の年。これほど生きるとは思っていなかったので、戸惑うことが多い。

と、それでも今号「GA」77号には「笹枕」50句、エッセイ2編に短歌10首「別の世の」(題は「俳句界」とほぼ同じ)、「蕪村へ」という蕪村句の鑑賞が2句、見開き4ページである。その中の一首を以下に・・・

  助走距離みじかきままに飛ぶ空の
          涯はしらねど香しきかな  

もう一人の「豈」同人・関悦史。「俳句界」今月号の「私の一冊」は自身の最新句集『花咲く機械状独身者たちの活造り』(港の人)をあげている。現俳壇で論作ともに精力的かつ、的を射た活動をしている関悦史の、句集の成り立ち、仕掛けを語ってじつに興味深い。挙げた最近作3句から以下に一句を挙げておこう。

  「あいつ綺麗な顔して何食つたらあんな巨根に」風光る     悦史




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