2017年8月19日土曜日

鈴木太郎「身不知柿(みしらず)を抱かせて母をかなします」(『花朝』)・・



 鈴木太郎第5句集『花朝』(本阿弥書店)、「花朝(かちょう)」は陰暦二月の異称でもあり、著者は、「陰暦二月中旬、すなわち現在でいう春の盛りを楽しむ意を込めてのものである。内容としては吟行句が主体といってよいように思う」(あとがき)と述べる。
 ブログタイトルにした句「身不知柿を抱かせて母をかなします」は、詞書に「身不知柿ー会津地方の醂柿(さわしがき)」とある。つまり、著者が福島県会津生まれ。その地方の柿である身不知柿を手にとった母は様々の思い出を一気に思い出し、その地に今はいない自らを寂しくしたのである。漢字を当てれば、愛(かな)しであろう。
言えば、幸せに満ちた句群の句集なのだが、著者の母恋も愛しい。

  別の世の母の夢みてかきつばた      太郎
  泪目の母よ正月会ひゆけば
     母 光子 逝去
  母死にき寒中の息使ひ切り
  亡母(はは)の夢見し日は亡母と桜餅
  咲き満ちて桜の中は妣(はは)の国

本集は、平成18年から28年までの句を収め、平成9年に創刊し主宰した「雲取」20周年を迎える記念でもあるという。
ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておこう。

  蓮咲くと竜になりたき鯉の髭
  鳥であるころのこととや青葉潮
  赤ん坊そのてのひらに夏野かな
  太陽がいのちのはじめ桜咲く
  指入れて螢袋をかなします
  紅型の鳥も魚もかげろへる  

鈴木太郎(すずき・たろう)、1942年、福島県生まれ。


           撮影・葛城綾呂↑

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