2017年10月14日土曜日

浅井民子「ラ・カンパネラ奔流となり夜の秋」(『四重奏』)・・



 浅井民子第二句集『四重奏』(本阿弥書店)、装幀・花山周子。集名の由来については著者「あとがき」に以下のように記してある。

 句集名『四重奏』は集中の句によるものではありません。俳句に関わることで、四季の移ろいが奏でる自然や風土、文化の豊かな滋味に気づき、触れ魅了されてきました。と同時に、四囲の人々、身近な家族に始まり、俳句につながる多くの方との得難い縁に恵まれ、友人知人のみならず同時代に生きる様々な方、世界との交流が醸し出す調べは私にとり何物にも替えがたく美しきものとなりました。その時空が音楽的で好ましく思われることから『四十奏』と名付けました。

 とはいえ、集名に少しこだわってみると、音楽に関わる句が意外にある。例えば、

   昼灯すヴィオロン工房鳩の恋     民子
   繰り返す自動ピアノや室の花
   十二月レノン好みの眼鏡選り
   横笛の横顔の翳花かがり
   黄落やサックス吹きのをみなたち
   初冬のアリア詩に酔ひ詩に泣けり
   幕間の黒づくめなる調律師
   能管の一節透くる梅月夜 
   ラ・カンパネラ奔流となり夜の秋

帯文は坂口昌弘、「あめつちへ深き祈りを大花火」の句を挙げて、

 造花に存在する森羅万象のいのちは光や音や匂いとなり、民子の詩魂の中で深い祈りのことばと化す。春夏秋冬は四時の楽器と化し、四十奏をかなでる。民子の句集は人と自然の共生を希求する。

と、惹句されている。ともあれ、愚生好みのいくつかの句を挙げておきたい。

   蚊遣焚くかもめ食堂潮時表
   人に倦み刻に倦みたり吾亦紅
   ことごとく陽を恋ふ形や冬木の芽
   蒼穹をゆらせる冬のあめんぼう
   かたかごや揺るるはさびし揺れざれども
   朝日あまねし武蔵野の枯木立

浅井民子(あさい・たみこ)、1945年、岐阜県生まれ。






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