2017年11月27日月曜日

佐藤映二「雪渓や急湍に風生れやまず」(『葛根湯』)・・



 佐藤映二第3句集『葛根湯』(現代俳句協会)、著者「あとがき」に、

 私の人生を振り返るとき、十代後半の宮沢賢治と音楽への目覚めが私の青春時代を形づくり、その後に出会った俳句の道を歩むにあたり、大きな支えとなりました。

とあるように、集中に宮沢賢治に関することや音楽に関係する句も多いが、何と言っても忌日を詠んだ句が多いのに驚かされる。アトランダムに挙げるが、

   金雀枝の実莢さやげりヘッセの忌    映二
   軒氷柱ごつごつ太る鬼房忌
   賢治の忌見えぬ手紙を渡す旅
   瀬頭の月下に白し迢空忌
   時雨忌や土と空気とわが自由
   和紙ありて詩歌残れり翁の忌
   栞して四十雀聞くゲーテの忌
   多喜二忌の首筋ぎくと鳴りにけり
   沙翁忌や柳の笞(しもと)水漬(みづ)きけり
   流木の隙に羽毛や浪化の忌
   箒草枯れて凛凛リルケの忌
   三鬼の忌離れず歪む石鹸玉
   英世の忌解体新書曝さるる
   幾多郎忌夏うぐひすの晴れ晴れと
   網に透く鬼灯ふたつ若冲忌
   
また、

  荒星を数へ鳥海むねき亡き
   兄・一(大正十五年五月一日生まれ、平成二十二年四月二十三日死去)
  ブランデンブルグの地鳴り南風が兄

 などの追悼句を加えると、理由はどうあれ、人を偲ぶ句が過半を超すのではないかと思えるくらいである。とりわけ、愚生は「鷹」時代からの鳥海むねきを思い、偶然にも何度かお会いする機会があり、親切にしていただいたことを思い出すと胸が熱くなる。
 もちろん「岳」同人らしく、地貌季語らしい季語を配した句、

  賢治好きオノマトペ好き成木責

もある。あるいは、集名に因む句は、

  葛根湯効きし夜長のトーマス・マン 

だろう。ともあれ、他にも愚生好みの句をいくつか挙げておきたい。

  ぶなしめぢどつてこどつてこどつてこど
  蔓茘枝つながりなほす生きなほす
  下駄の音立てず来る妣かぎろへり
  身支度のひとつが笑顔春ショール
  入学す津波到達点に杭

佐藤映二(さとう・えいじ)、1937年福島市生まれ。




  


  
 

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