2017年11月28日火曜日

上田五千石「もガリ笛風の又三郎やあーい」(『上田五千石私論』より)・・

 

 松尾隆信『上田五千石私論』(東京四季出版)。本書の多くは「松の花」誌上に「眼前直覚の推移ー五千石俳句に見る」として連載されたものという。また、五千石では世上評価の高かった、

  第一句集『田園』ではなく、第二句集『森林』についての考察からはじめていることに違和感を持たれる方もあるかもしれないが、これは、私が五千石に師事したのがその時期であったため。以来行を共にしてきた者として、その行程の確認から出発したかったのである。 

と、著者「あとがき」に記されている。同時にそれは、松尾隆信にとって、

 わが師・上田五千石が決して句集『田園』のみの俳人だけではなかったとをひしひしと感じている。

いわば本書は、その証明を当初より目論んでいたようである。それは五千石自身の口惜しみを灌ぐためだともいえよう。「眼前直覚」と「眼前直叙」。本書では、「竹の声晶々寒明くるべし 昭50」「母の忌を旅にありけり閑古鳥 昭54など4句をあげて、五千石の言葉を引いて、

 私が「眼前直覚」を俳句の在り様とするようになったのは、私の人間的はからいを捨てて賜った句の、そして多少は成功したという実験に発したものです。

と総括している、と述べている。ともあれ、愚生のような五千石俳句に熱心な読者で無かった者には、五千石の大方を知ることができる一書にちがいはなかった。巻末付録に「五千石の百句」があり、ブログタイトルにした「もがり笛風の又三郎やあーい」には、以下の鑑賞文が付されている。

 昭和三十四年作。盛岡から帰り、風の又三郎のラジオ放送をきっかけに成った句。どこか甘酸っぱい。この句の背後には、ー生涯を伴にする人ができたーとの叫びがある。

以下、いくつか五千石百句(松尾隆信選)から挙げておこう。

   青嵐渡るや加嶋五千石
   告げざる愛雪嶺はまた雪かさね
   萬緑や死は一弾を以て足る
   渡り鳥みるみるわれの小さくなり
   開けたてのならぬ北窓ひらきけり
   太郎に見えて次郎に見えぬ狐火や
   たまねぎのたましひいろにむかれけり
   もがり笛洗ひたてなる星ばかり
   安心のいちにちあらぬ茶立虫

松尾隆信(まつお・たかのぶ)、1946年、兵庫県生まれ。


0 件のコメント:

コメントを投稿