2018年2月10日土曜日

西東三鬼「葡萄あまししづかに友の死をいかる」(『西東三鬼全句集』)・・



『西東三鬼全句集』(KADOKAWA・ソフィア文庫・本体1240円)、解説は小林恭二。中で、

 三鬼を語る難しさは、彼が根からの演技者であった点にある。その演じぶりはきわめて堂に入っており。その作品や所行を編年順に漠然と追っていると、常に三鬼が変節しているように見える。しかしそれは達者の役者が悪役を演じると、「あなたがそんな人とは知りませんでした」という非難の手紙が届くのと同じで、当を得ていないことはなはだしい。(中略)
 そういう事情もあって本解説では、無謀を承知で、三鬼の全体像を語るというより、デビュー時についてのみ語ることにしたい。もし絞るのであれば、三鬼がもっとも光彩陸離としたこの時代をとりあげるのが筋であると思うからだ。

 と述べているが、愚生もまた、その時代の三鬼の作品を、あらためて読むと心躍るのである。
 本三鬼全句集がこれまでの全句集ともっとも違うのは、初句索引と季語索引を付していることである。もちろん、句の制作順、句の初出誌、句の異同を逐一あきらかに記した三橋敏雄編著の沖積舎版は、年譜を含めての緻密さでは、角川ソフィア文庫版を凌ぐけれど、廉価である本文庫は、学生や若い人達、また、年金暮しの老人にも手にすることが出来(愚生は図書館だが・・)、かつ手軽に句を味わえるという意味では実にありがたい一書である。
 また、その都度刊行された句集を底本にしているので、句の重複もあるが、拾遺の章では初出形も補っている部分、一部に、自句自解の章も付されている。
 ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておきたい。

  水枕ガバリと寒い海がある       三鬼
  不眠症魚は遠い海にゐる
  白馬を少女瀆れて下りにけむ
  算術の少年しのび泣けり夏
  緑蔭に三人の老婆わらへりき
  ピアノ鳴りあなた聖なる冬木と日
  兵隊がゆくまつ黒い汽車に乗り
  湖畔亭にヘアピンこぼれ雷匂ふ
  訓練空襲しかし月夜の指を愛す
  寒燈の一つ一つよ国敗れ
  おそるべき君らの乳房夏来る
  中年や遠くみのれる夜の桃
  穀象の一匹だにも振り向かず
  みな大き袋を負へり雁渡る
  露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す
  赤き火事哄笑せしが今日黒し
  大寒や転びて双手(もとて)突く悲しさ
  限りなく降る雪何をもたらすや
  広島や卵食ふ時口ひらく

 西東三鬼(さいとう・さんき)、1900年5月15日~62年4月1日、岡山県苫田郡(現・津山市)生まれ。




            撮影・葛城綾呂↑

0 件のコメント:

コメントを投稿