2018年4月24日火曜日

野木桃花「火に仕へ水に仕へて昭和の日」(『飛鳥』)・・



野木桃花句集『飛鳥』(深夜叢書社)、著者「あとがき」に、

 俳句結社「あすか」は創刊主宰名取思郷先生のお住まいに近い東京都北区の飛鳥山から命名されました。この句集は先師に捧げる思いから句集名を『飛鳥』と致しました。

とある。その思いもあってか飛鳥山を詠んだ句も多い。

   料峭や松の樹影のあすか山      桃花
   先師ふと脳裏に花の飛鳥山
   はつなつの大地の鼓動飛鳥山
   師の忌来る飛鳥の山の初桜

 因みに、先師・名取思郷創刊の「あすか」は、今年4月号で、創刊55周年を迎えている。

   
 句集の栞文は投げ込みで、齋藤愼爾「吉野幻視行ー芭蕉・野木桃花・前登志夫」と武良竜彦「漣の美学」である。まず、齋藤愼爾は、

 芭蕉、桃花、登志夫の三作品に共通しているのは、「桜の森の満開の下」の「冷たい虚空がはりつめているばかり」の場所に、人間の「孤独」を凝視していることだろう。三人が見せる人間存在の切なさ、かなしさ、澄み切った美、虚無の極限。なかでも野木桃花氏のように満開の桜の、目も眩むような異界に分け入ることを、「花びらの扉が開いて」と具象化してみせた文学者はかつていただろうか。

と述べ、武良は、

 (前略)この「一日」「一歩」が平穏な日常を育む平和の最重要元素である。平常心であることの「冴え」である。声高に反戦を叫ぶ沸騰型言語と精神はその対極にある。そこでは言葉が表層化し、命と暮らしの実感的実体と遊離して、空疎化するばかりである。平和の真の敵はそんなスローガン言語と精神である。
 『飛鳥』に収録された野木桃花俳句は、そんな社会的な流通言語と荒廃した精神とは正反対の、太古より自然物の芯の辺りで育まれてきたような静謐な世界に満ちている。

 と賛辞を惜しまない。ともあれ、以下に愚生好みの、いくつかの句を挙げさせていただこうと思う。

   ちちよははよ冬の花火が見えますか
   新涼や素肌になじむ母のもの
   心身の眠りたりなき返り花
   白線の内側に立つ初時雨
   結界やしつらひ終えし流し雛

野木桃花(のぎ・とうか) 1946年、神奈川県生まれ。


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